ひだまりカフェ通信 第5号 平成30年9月1日

古文編 第1回 伊勢物語「芥川」

白玉か何かと人の問ひしとき
 露と答えて消えなましものを

 あの白い水滴は白い宝石か何かですか、と女のひとが尋ねたとき、あれは露ですよ、と答えて一緒に死んでしまえばよかったのに。
 男に盗み出され、背負われて逃げるときに、女は男の背中で、草に付いた水滴を見て、「かれは何ぞ」と尋ねる。つまり、この女はめったに外に出る機会がないほどの深窓の麗人であることがわかる。そして、物語の終わりでこの女は鬼にさらわれてしまったと男は思い後悔して詠んだ歌がこの歌である。
 さらわれた女は、高貴な身分の令嬢であろうと思われるが、今の状況ではこのようなことを尋ねるということは、男のことをまんざら嫌とは思っていないからであろう。それでなければ、全くの天然としか考えられない。
 また、蔵の中に女を押し込め、鬼から守ろうとして夜中じゅう寝ずの番をする男の執念も凄まじいものがある。それにもかかわらず女を食われてしまった男の無念さがこの歌からは読み取れる。
 この話には後日譚があるが、それを知らないほうがこの歌は生きてくるし物語としても夢がある。後日譚はその夢を醒ましてしまう。